田中大地のwebサイト

いまだ日本に残る3Kが揃った業界の代表格こそ映画業界だと思うのだけど、それでも数少ない役得はあって、バイヤーということで映画祭の未配給作品はタダで観れたりするもので、そう言った恩恵をありがたく受けながら、フランス映画祭に足を運ぶ。といっても周りのみなさんのおっしゃる通り、「先行上映の場」(あるいは映画パブリシティーの一環)と化した感のあるフランス映画祭は、新作実写は上映11作品中8作品が劇場公開決定済み、ということで実質候補は3作品のみ。僕自身は、土曜日は用があったので、『アナタの子供』(ジャック・ドワイヨン)、『恋のときめき乱気流』(アレクサンドル・カスタネッティ)のみの参加となった。(勿論、トリュフォーの『緑色の部屋』は駆けつけましたよ)

よほど感動的な話を聞ける場合を除きゲストのトークとか興味がない僕からしてみれば、公開決定済み作品を小さなスクリーンでわざわざ観る理由もないというもので、『黒いスーツを着た男』『椿姫ができるまで』『わたしはロランス』『遭難者(仮)/女っ気なし(仮)』『ウェリントン将軍~ナポレオンを倒した男~(仮)』もTWタイムラインの熱狂にも煽動されず。見ざる聞かざる動かざる。

相変わらず素晴らしい映画祭レポートを届けてくれるブログ*1を観る限り、秦早穂子氏のトークが聞けなかったことにうぬぬと思うも、そもそも土曜はどうしたって参加が難しかったので潔く諦めようと。僕がかつて、はてなダイアリーでしょうもなく、しかし僕にとっては感動的な日記をつけていた頃*2、アカウント名に「Lola」と使うほど好きな映画のデジタルリマスター版が上映されようと、仕方ないものは仕方ないのだ。と書いてみて、Lolaとつけたのはフィリップ・ガレルの『恋人たちの失われた革命』からThe Kinksムーブメントが周囲で勃発し、キンクスの名曲「Lola」からとったのかもしれないと思い始めた。全くどちらでもよいことだが。ウェス・アンダーソン!

と、ここまで書いたところで、酔っ払っている勢いもあるのか、どうしたって私はいますぐに「This Time Tomorrow」を聞かればならないという使命感に駆られ、youtubeを開く*3。冒頭女2人がけだるそうにソファーにもたれかかっている。女が振り返る。私は彼ら彼女らの動きに一瞬たりとも目を離せなくなる。およそ2分1秒をピークにわたしたちは宣戦布告するだろう。映画のストーリーなんてひとつたりとも覚えちゃいないが、このシーンだけは目をつむればほとんど思い浮かぶ。これこそ映画だ、と思う。ところでさっきから本文中にうまくリンクが貼れずとても悩ましい状態だ。なので、下にリンク集をまとめておこう。

さて、何の話だったろうか。そうゲストだ!ゲストに全く興味のない私は、サニエ嬢が登壇して一目観れた瞬間に席を立った。満席の中、席を立ったのはおそらく私だけだったろう。サニエ嬢は大好きだし、『恋のときめき乱気流』も大好きな王道ラブコメだったが、しかし私は翌日5時半に起きて早朝英語レッスンに向かわねばならない。将来サニエと対談するために、いまは観客席から眺める立場はやめよう、と決めるのである。ほとんどアメリカ映画だ!と叫ばずにいられない本作は是非配給されると嬉しいです(だんだんと疲れてきた)

 

 

というわけで、ようやく本題のジャック・ドワイヨン『アナタの子供』である。

これがまたとんでもなく素晴らしい大傑作だ。

一部の方はご存じであろうが、本作の後に撮られたドワイヨン最新作『ラブバトル』は私たちが配給することを決定した。『アナタの子供』も『ラブバトル』も、『ラ・ピラート』から連綿と続くドワイヨン映画、すなわち男と女の会話劇/肉体的なコミュニケーションからは一切外れもしない映画である。(その意味で「作家性」という言葉が最もしっくりくるのはジャック・ドワイヨンこそ、と言いたい。)

しかしこの2作は地盤は共通であれ、やろうとせんことは、全く逆の作品である。ドワイヨンは『ラブバトル』において、そのノワール的な雰囲気と裏腹に、サスペンス性を徹底的に排除する。本気になれば一瞬で女を文字通り潰しかねん屈強な男(ジェームズ・ティエレ)と強風ですら吹き飛ばされそうなガリガリの女(サラ・フォレスティエ)の”バトル”がほとんど唯一のストーリーめいたものである『ラブバトル』は、誰がどう見ても「男が本気になれば、女なんて一瞬で負かしてしまうことができる」ことは明らかである。すなわち、最初から勝敗は分かっているのである。そこに”どう転ぶか分からない”サスペンス性は一切存在を許されない。

一方、『アナタの子供』はどうだろう。まさにドワイヨンの主戦場と言える、「男2人と女、そして子役」を並べ、二人の男の間で揺れる女を描く本作において、我々はルー・ドワイヨン演じる女の選択を、その結末がわかるわずか一瞬前まで、確心を持ちえない。あるいは、双方の男すらも捨て、子供と2人で生きるのか、という選択すらも想起させる、思い出のホテルへと車を走らせるルー・ドワイヨンの姿を観て、わたしたちは「喜劇的」だった映画が一瞬にして、とてつもない傑作に昇華する瞬間を目撃する。そして、最後の浜辺における”儀式”で、この映画は、喜劇であると同時に”最高のサスペンス”だったのだと舌を巻く。しかし、このラストが『わたしたちの宣戦布告』に並ぶ、”爽やかさ”を備えているからこそ、心から、「最高だった」という言葉が生まれるのだろう。

 

2013年のベストにドワイヨン作品を2作入れたくもなる、いたずら心が芽生えることはいけないことだろうか。そして、『アナタの子供』もやりたいな、なんてね。

 

 

*1 http://imaginarypossibilities.blogspot.jp/2013/06/2013.html
*2 http://d.hatena.ne.jp/Lola/
*3 http://www.youtube.com/watch?v=qgeglxSJJa8

 

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